★ クリスマスに騙された男(前編) / えんぎ ゆう



クリスマスの夜、男は街灯に佇んでいた。
ほのかなオレンジ色に照らされながら、少し身震いをする。
空を見上げれば、チラチラと粉雪が舞降りてきた。

「寒い筈だ。」

口にした分、白い息が鼻をくすぐり消えていく。
雪から逃れようと、帽子を深く被り直し、ポケットから煙草を取り出した。
何故、彼はこんな街中に立っていなければならないのか?

クリスマスだというのに。
恋人達が過ごす夜だというのに。

けれど彼は、此処に居なければならなかった。

一通の自分宛てに来た手紙。
『クリスマスの夜、この場所で待っている。』
たった一行記したカードと、律義にキスマークが付けられていた。
女と言えば不二子くらいしか検討がつかないが、彼女は現在バカンスに出掛けている。
何よりも、ルパンならともかく、自分に、しかもクリスマスの日に待ち合わせをして
くる相手なんて、早々に居ない。
このまま無視しても良かったのだが、そのカードに込められている意味を察知した彼は
、恋人であるルパンを置いて出掛ける事にした。
当のルパンには「何処へ行くのか?」と散々聞かれ、次元は適当に誤魔化しつつ、
此処へやって来たという訳だった。

夜9時を過ぎようとしていた。
「次元大介?」
背後から艶やかな声が聞こえて、ゆっくりと振り返る。
そこには、不二子を凌ぐ程の美女が立っていた。
真っ白なミンクのコートを身に纏い、金色の短い髪が風に揺れている。
綺麗な女だ、と次元は正直に思った。
そしてニッコリと微笑んでくる彼女をマジマジと見つめながら、「何処で会ったか
な?」と問掛けた。
「私の事、覚えて無い?」
その言葉に、次元はフフッと口元を緩ませた。
「お前ぇみてぇな女だったら、一度会うと忘れねぇよ。」
そう、と女はうつ向いた。
そして何かを閃いた様な表情をして、パッと顔を上げた。

「じゃあ、思い出すまで、私と付き合って。」
「あぁ?お前さんは、俺に何か用事があって手紙寄越したんじゃねぇのか?」

そうね、あると言えばあるけれど。という素振りを見せて、女は「今は言えないわ」
と答えた。

雪が段々と強くなって、女はわざとらしく身震いをし、次元を見つめた。
「私、行く宛てが無いの。」
その言葉に、次元はヤレヤレと溜息を付く。
「少し歩くか。」
そう言って次元は歩き出すが、後ろから彼女が付いて来る気配が無い。
振り向くと、街灯の光に包まれたまま、彼女は佇んでいる。
空から落ちてくる雪が、オレンジの光に照らされてキラキラと輝きながら、彼女の周り
を舞っていた。
その様子に見惚れながらも、スッと手を差し伸べると、名も知らぬ女は少しムッとした
表情を見せた。
「エスコートは、必要ねぇのか?」
次元の手を通り過ぎ、ズンズン歩いて行く彼女に声を掛けながら後を追い掛ける。

「名前ぐれぇは、教えてくれても良いんじゃねぇか?」
「・・・貴方、女には何時もそうやって口説くの?」

横に並び質問すると、反対に投げ返されて次元は躊躇する。
そんな事ねぇよ。と、首を振って彼女の横顔を見た。
ツンとした彼女の鼻先に、雪が落ちて溶けて行く。
「・・・やっぱり何処かで会ったのかな?」
次元がポツリ呟いた言葉に、女は「さぁ、それはどうかしら?」と言って身を竦めた。

「・・・なんて呼べば良い?」
「マリーって、呼んで。」

白く細い指を唇に当て、妖艶に笑う彼女は、とても魅力的だった。
次元は、笑みを浮かべて「分かった、マリー。」と頷いた。





「此処が良いわ。」

そう言って、彼女は目の前にそびえ建つ、お城の様なホテルを指さした。
二人は今日出会ったとは思えない程、まるで恋人の様に街を歩き、一緒にレストランで
食事をし、他愛の無い話をしてクリスマスの一時を過ごしていた。
そして、最終的にやって来たのは、ラブホテルという訳だった。
マリーは入口の前で、次元の様子を伺っているのが垣間見える。
「本当に良いのか?」
それに気付いた次元は戸惑った様子で、彼女に問い掛けた。
「私と一晩付き合ってくれる?それとも、恋人が待ってるのかしら?」
マリーが意地悪く言うと、次元は少し困った顔を見せて、「恋人ねぇ。」と呟く。

「私、魅力的じゃない?」
「そんな事無いさ、良い女だと思うぜ?」

だったら良いでしょ?と、彼女は言った。
「そうだな、お前が後悔する羽目にならなけりゃ良いがな。」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、次元が言うと、マリーはまた怒ったような表情を
して「私を抱くの?」と言ってくる。

「抱いて欲しいのか?嫌なのか?お前はどっちなんだ?」
「・・・それは、も、もちろんっ、貴方が相手なら良いわよ。」

自分から誘った割には、歯切れが悪い。
そんなマリーの態度に、次元はニヤリと笑い、「いいぜ」と、彼女の腕を引っ張った。
「え、ほ、本気?」
突然、困惑した表情を見せたのは彼女の方だった。
思わずグッと足に力を入れ、立ち止まるものだから、「お前が誘ったんだろ?」と言うと、
怯えるような瞳で「貴方は遊び人には見えないわ。」と言ってきた。
仕方無いな、と次元は心の中で呟き、「泊まるのはお前だけさ。」と言って、彼女の腕を
引っ張った。

「それとも野宿するつもりか?」

雪は次第に強くなっていく。
短いスカートを履いているせいか、足をガクガクさせている彼女に、次元は優しく問い掛けて、
「送ったら帰るから。」と念を押して、中へと入って行った。

<続>

小説掲示板初投稿☆
・・・・ちょっと長いかな?ごめんなさいorz後編も、同じくらいの長さです・・・。
続きは、また近いうちに投稿させて頂きます^^

No.9 - 2008/12/11(Thu) 03:43:42

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☆ Re: クリスマスに騙された男(前編) / カルメン 引用
次元がルパンをおいて女の呼び出しに応じるなんて!と思ったら
マリーさん登場!でわくわくです。
ルパンの女装かなあ。でも違うのかなあ。続きが楽しみです。

No.11 - 2008/12/11(Thu) 12:33:13

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☆ Re: クリスマスに騙された男(前編) / えんぎ ゆう 引用
感想ありがとうございますv
ルパンの女装なのか、そうじゃないのか・・・・。
私の書く話は単純なので、「思った通りじゃーんv」って感じ
になると思います(笑)

あと、失敗投稿削除ありがとうございました(ペコペコ)

No.13 - 2008/12/12(Fri) 07:11:20



★ クリスマスに騙された男(後編) / えんぎ ゆう



「次元、お前ってさ・・・俺に不二子ちゃんの事で文句言うけどさ、お前だって女が現れたら
ホイホイ付いて行っちまうだろ?」

ある日、ルパンがいつものように、不二子に騙され、次元からお説教をくらっていた時の事だ
った。
お前だって、女に騙されるに決ってる。と、強く言ってくるルパンに、次元は「そんな事ねぇ
よ。」と突っぱねた。
その時は、それでうやむやに終わったが、ルパンは「いつか絶対に女に鼻の下を伸ばさせて、
俺に文句言えないようにしてやる!」と心に誓っていた。

実行されたのは、クリスマスの前日だった。
ルパンは泥棒家業を実行中の最中、盗みに入ったデパートで、逃げ惑いながら店頭に並んでい
たちょっと小洒落たクリスマスカードを失敬した。
アジトに戻ってから、そのカードに女性の文字で、待ち合わせの日時と場所を書き、おまけに
キスマークも付け足した。
そしてカードをアジトのポストに入れた後、次元が新聞と一緒にそれを取ったのをこっそりと
確認する。

クリスマスに、俺と見知らぬ女と、どっちを取るだろう?
行くか?いや、やっぱり行かないか。
俺なら行くけどな。
でも、次元だったら、行かないかな?

気持ちは行って欲しくは無いが、希望としては行って欲しい。
心の中で葛藤している間にも、クリスマスはやって来て、ルパンの気持ちも作戦も知らず、
次元は身支度を始めた。

・・・やっぱり行くんじゃねぇか!

そう思いながらも、「いや、でも名前を書かなかったから、何か裏の仕事の依頼と思ったかも
しれない。」と、言い聞かせて、次元を見送った後、ルパンは大急ぎで着替えに取り掛かった。
本当は、カードを持って、待ち合わせの所まで行って、「お前だって女と待ち合わせしてんじゃ
ねぇか。」とか「待ち惚け食らってんじゃねぇか。」とか言おうと思っていたが、次元はカード
を持って行ってしまったのだ。
次元の事だから、女が現れるまで律儀に待つだろうし、それに女装した自分とデートというのも
面白いかもしれない・・・という好奇心もあった。
結果、以前ルパンが変装した恰好は知らないだろうと、ルパンはマリーとなり、次元と会う事と
なったのだが・・・。





・・・なんだよ、お前だって女に鼻の下伸ばすんじゃねぇか。


自分とは気付かれ無かったので、調子に乗ってラブホテルへと連れ込んでしまったが、「部屋ま
で送ったら帰る」と言っていた彼が一向に出て行く気配が無い。
「取り合えず、服を脱いだらどうだ?」
なんて言ってくる次元に、胸のムカつきさえ覚えていく。

・・・何が送ったら帰るだ。嘘つき!次元のバーカ!

心の中で舌を出しつつも、平然を装いながらコートを脱いで壁に掛けていると、「マリー。」
と、呼び掛けてくる彼の声が聞こえた。
「どうして、そんなに膨れっ面してんだ?」
いつもの声で、いつもの口調で、彼が聞いてくる。
ルパンは引き攣った笑みを浮かべて「そう?そんな事ないわよ、オホホ。」と返して、備え付けの
ソファーに腰を下ろした。
「じ、次元・・・あの、私もう大丈夫だから・・・。」
何時、自分がルパンであると名乗ろうか、と考えながら、それでも「次元は女には手を出さない
だろう」と心の何処かで言い聞かせていた。

なのに、ルパンの願いとは裏腹に、次元は隣に腰を下ろしてきたかと思うと、突然グイッと肩を
掴んで押し倒してきたのだ。

「・・・っ!!ちょっ・・ま、待ってっ!」
「誘ったのは、お前だろ?」

帽子から見え隠れするその黒い瞳は、とても真剣で。
自分以外の他人にも、そんな顔を見せるのかと、胸がギシッと痛んだ。
重く圧し掛かる彼に、怒りを覚えるよりも。
強引にキスを迫ってくる彼に対して、ショックの方が何倍も強くて。
ルパンは、正体を曝け出す事も忘れて、彼の腕からすり抜けて、床にへたれ込んだ。

「あ、あ、あ、あの・・・私、シャワーッ、シャワー浴びてくるわ!」

おい、と声を掛ける彼から逃げるように、ルパンはバスルームへと入って行く。
高鳴る心臓を少しでも落ち着けさせようと、胸を抑えながら、ルパンは「どうしよう?!どうしよ
う?!」と小声で口走った。

・・・次元が、あんな男だったなんて。
・・・俺と同じ?いや俺以上?!
・・・というか、むしろ。

頭を抱え込むように、ルパンはしゃがみ込んだ。
「むしろ、今更俺だなんて、言える状況じゃねぇ・・・。」
兎に角、逃げなければと、ルパンは顔を上げて壁を見るが、最悪な事に窓が無い。
このままでは、自分だとバレて、怒られるに決っている。
それは、自分が彼を騙して、「お前だって」と言い寄るよりも、何倍も怖いものだと自覚したルパ
ンは、天井裏からでも逃げるかと思い付き、浴槽に足をかけようとした時だった。

ガチャ、と背後からドアが開く音が聞こえて、ルパンはビクッと跳ね上がる。

次元の他の女に向ける顔を見たくない気持ちも残っていて、ルパンは振り返らないまま、取り合えず
「服を脱ぐから、見ないでよ。部屋で待ってて。」と取り繕った。

「部屋で待てって・・・いつもそんな甲斐甲斐しい事言わないじゃないか。」
「ええ、そうなんだけど、今日は・・・。」

彼の言葉に返事しかけて、ルパンはふと思考を止めた。
えっ?と思わず振り返った背後には、いつものように不敵な笑みを浮かべる次元の表情と、その手
には例のカードが持たれていた。
「・・・えっとぉ、あの???」
キョトンとしている女装したルパンに、次元が「いい加減気付けよ。」とカードをヒラヒラとさせ
ながら言い寄ってくる。
頭が上手く回転しない彼に、次元は「ルパン」と名前を呼ぶと、ようやくハッと我に返った。

「・・・・えっ!!な、なんで?!知ってたのかよ!何時から?!」
「何時からって、最初からに決ってるだろうが。」

お前、俺が女を口説くような男だと思ってやがったのか?と、次元は言って、バシッとカードを額に
押し当ててきた。
「あのな、直接ポストに突っ込まれてる時点で、ワザワザ待ち合わせするなんておかしいだろ。」
確かに切手を貼らなかった。
けれど、そういう女だって居るじゃないか、とルパンは言い返す。
あのアジトは、三日前に新居地で借りた家だから、誰も知らないだろ。と、次元が言っても、「女が調
べたかもしれねぇじゃねぇか!」と更にルパンは食いついた。
ヤレヤレ仕方が無いと、次元は彼に歩み寄ると、グイッと抱き寄せて耳元で囁く。

「決定的な証拠はな、カードにお前の匂いが付いてた。」
「えっ、匂い?匂いってなんだよっ。お前犬か!」

クンクンと自分の腕を嗅ぎながら、ルパンはムッとしたように次元を押し退けた。
「お前、このカード書いた時、銃を使ったろ?」
確かに使った。
クリスマス前の大仕事を果たした時、デパートでカードを失敬しながら、逃げる為にワルサーを使った
のだ。
「手も洗わずに書いただろ、カードにワルサーの硝煙の匂いがこびり付いてんだよ。」

次元の言葉に、ルパンはグッと押し黙る。
「それで?俺に何も言う言葉は無いのか?騙そうとした上に、俺の行動を一々信じやがって。」
何も言い返せなくなったルパンは、ムムム・・・と、口を閉ざすばかりだ。
それでも何か言わなければ、何の為に計画を立てたのか分からないと、顔を上げる。

「お前だってな!・・・んっ・・ぅ・・。」

何でも良いから、文句を言うつもりだった彼の行動は、次元にはお見通しだった。
はいはい、と宥めるように、その唇を塞ぎ舌を絡める。
唇を離すと、瞳の潤んだ愛らしい彼が、自分を見つめていた。

「俺は、お前しか見てねぇから・・・アレコレ勘繰る必要なんて、これっぽっちもねぇよ。」

さっき見せた真剣な顔は、自分にしか見せないんだ。
そう悟ったルパンは、小さく頷きギュッと彼に腕を回した。

「折角のクリスマスだし、ヤッとくか。」
「えっ、先に化粧落とさせろよっ。」

グイグイと腕を引っ張られて、ルパンは慌てながらバスルームへ引き返そうとする。
だが、次元は「俺の為に、その恰好になってくれたんだろ?」と言って聞かず、そのままベッドへと
押し倒されてしまった。

「いい女だぜ、マリー。」

唇から吐き出される台詞は甘く、ルパンはその言葉に酔いしれながら目を閉じた。

<終>


すませ・・・(笑)
女装ルパンを書いてみたくなり、速攻で書き上げてしまったので、ちょっとツメが
甘いかもですorz

No.16 - 2008/12/14(Sun) 00:57:39

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☆ Re: クリスマスに騙された男(後編) / カルメン 引用
騙された男はルパンだったのですね。
あの・・・ルパンのキスマークのお手紙ほしいですw
次元が他の女に鼻の下を伸ばすのにやきもきするルパンがかわいいです。
自分は女の子と浮気はしても次元の浮気は許せない。そうそうルパンは王様ですから。
で、その次元がルパンしか見てないから勘ぐるなって、ナイスなフォローです
次元はそうでなくちゃ!
さすがル受けの微妙な乙女心を掴んでますね。

そういえばマリー姿は次元は知らないのですね。
この後、ルパンがオナベスと結婚したときの話なんかしたら、ひと悶着起きるかしら?
楽しいお話 ありがとうございました。

No.18 - 2008/12/14(Sun) 16:55:33

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☆ Re: クリスマスに騙された男(後編) / えんぎ ゆう 引用
カルメン 様
こんばんは、返事が遅くなりました(汗)
あっ・・・良かった、分かってもらえた(笑)
そうです、そうなんです、「騙された男」は実はルパンだったという
オチでして。
ルパンの騙しゴッコに乗ってあげたって感じですね^^

オナベスと結婚した事は知ってるけど、「こんな恰好してたのか」
って思い返したら、確かに一悶着起きそうですよね(笑)

No.21 - 2008/12/20(Sat) 00:48:57




   





 

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